【蕪村菴俳諧帖55】正月気分

◆一休さんは二日から

毎年のこととはいいながら、 正月には晴れやかであらたまった気分になりますね。

○元日や 土つかふたる顔もせず 去来
○元日や 人の妻子の美しき 梅室

いつも野良仕事をしているようには見えない 小ざっぱりしたいで立ちの農夫。
とくに元日は年神(としがみ)を家に迎える日ですから、 普段着のままというわけにいかないのです。

人々がめかし込んでいたのには別の理由もありました。
それは新年の挨拶回り。

○かつしかや 川むかふから御慶いふ  一茶
○湯屋のかゝ 人見下して御慶哉    梅室

「御慶(ぎょけい)」は新年の挨拶のこと。
一茶の句は川の向こう側とこちら側で大声で挨拶したと。
梅室は番台から挨拶する銭湯の女将を詠んでいます。

○唐のものはあへて用なし 神の春 調和
○元日や 仏法いまだ注連の外 蓼太
○一休は二日なるべし 髑髏 保吉

唐(から=中国)など外国のものは用がないと調和の句。
蓼太(りょうた)は注連(しめ)飾りの内は神の領域だと言い、 保吉(やすよし)は一休(いっきゅう)は二日に来いと言っています。

一休宗純は髑髏(しゃれこうべ)を棒の先につけて歩き、 正月を楽しむ人々に警句を発したと伝えられています。
そんな説教はせめて二日からにしてもらいたいと。
正月は神道の行事だという認識があったからでしょう。


◆正月のしつらえ

正月の神は地方により歳徳神(としとくじん)とも呼びます。
その年に神の来る方角を恵方といい、 家々ではそちらに向けて恵方棚、歳徳棚をしつらえました。

○火の数や 歳徳棚のにぎやかさ 鬼貫
○恵方棚 鼠にゆかしがられけり 也有

棚に供え物を並べ、蝋燭(ろうそく)に火をともすと 家の中は正月気分に満たされます。
しかし天井裏では鼠も興味津々で見ているだろうと。

さらに正月気分を高めたのが蓬莱(ほうらい)飾りです。
蓬莱は不老不死の理想郷のことですが、 床の間に置いた台の上に蓬莱山の作り物を載せ、 三方(さんぽう)に米、海老、昆布、勝ち栗、橙(だいだい)、 蜜柑などを盛り、鶴亀の作り物を添えたりしました。

○蓬莱の橙赤き 小家かな 蒼虬
○蓬莱の上にや居ます 親二人 青蘿

蒼虬(そうきゅう)の句は裕福でない家にも 蓬莱飾りがあったことをうかがわせます。

青蘿(せいら)が蓬莱の上にいらっしゃると言っているのは 尉(じょう=老翁)と姥(うば=老婆)の作り物のこと。
長寿を象徴する一対の人形に両親の姿をかさねて見ているのです。
江戸時代の正月は、現代とは ずいぶん趣がちがっていたようですね。




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