【蕪村菴俳諧帖51】梅雨が明けたら
◆一家総出の虫干しの日
梅雨が明けると、どの家でも一斉に行なっていたのが土用干し。
かつては夏の風物詩でした。
○なき人の小袖も 今や土用干 芭蕉
○いさゝかな料理出来たり 土用干 蕪村
芭蕉の句。
夏の日差しの下、着る人のいない小袖が吊るされています。
不在をあらためて思い知り、面影のよみがえる一瞬。
蕪村の句。
衣服だけでなく調度、蔵書の類まで日に干すため土用干しは一家総出の一日仕事になることも。
簡単な食事をとって休憩し、またひと仕事です。
現代人は土用というと
土用干しでなくて鰻(うなぎ)を連想する人が多いでしょう。
江戸時代は鰻だけでなく、土用蜆(しじみ)も食べていました。
ほかに玉子や蒜(にんにく)も摂っていたそうですから、
暑さ対策は意外に万全だったのかも。
○土用餅 腹で広がる雲の峰 許六
「雲の峰」は積乱雲を山に見立てた表現。
土用餅を食べたら、腹の中で雲のようにむくむく広がってきたよと。
土用餅は砂糖入りの甘い餅だったとも
小豆餡を入れたともいわれていてはっきりしないのですが、
栄養補給のために食べたことはたしかなようです。
◆土用は年四回あった?
旧暦を用いないせいか、わたしたちは いつ土用に入っていつ土用が明けたのか はっきり知らないまま過ごしてしまっています。
夏の土用は立秋の前の十八日間と定められており、
立春、立夏、立冬の前の十八日間も土用です。
つまり春夏秋冬すべての季節に土用があるのです。
どうしてそんなことになったのか。
中国から伝わった五行説(ごぎょうせつ)は
万物は木・火・土・金・水の五つの行(≒要素)の働きで
生じたり変化したりすると考えました。
そしてあらゆることがらを五行に配当しようとしたのです。
けれども四季を五つには分けられないので、
春は「木」、夏は「火」、秋は「金」、冬は「水」とし、
各季節の終わりに十八日ずつ「土」を割り振って合計七十二日にして
一年を五等分したのでした。
でも実際に重視されているのは夏の土用だけ。
土用波、土用凪(なぎ)、土用見舞(=暑中見舞い)など
土用といえば夏の土用を指すようになっています。
○鎧着て疲れためさん 土用干 去来
この先使うあてもない先祖伝来の鎧(よろい)一具も虫干し。
着てみたくてしょうがない男がいいわけをしています。
土用干しは意外に楽しい行事だったのかもしれません。