【蕪村菴俳諧帖5】それにつけても山崎宗鑑

◆切りたくもあり切りたくもなし

室町末期の連歌師、山崎宗鑑(そうかん 1460頃-1540頃)、 ある人に「切りたくもあり切りたくもなし」という下の句に 上の句を三句付けてみよといわれ、

一、ぬすびとを捕へて見ればわが子なり

二、さやかなる月をかくせる花の枝

三、心よき的矢の少し長いをば

という三句を作ってみせました。
有名なのは最初の句ですね

ぬすびとを捕へて見ればわが子なり 切りたくもあり切りたくもなし連歌師たちはこういう付合(つけあい)というゲームを 余興として楽しんでいました。
かれらの機知とユーモアを受け継いだのが 江戸時代の俳諧の世界でした。

宗鑑はエピソード豊富な人物です。
最も有名と思われるのが、やはり機知を称賛する次の話。

◆それにつけても金の欲しさよ

逍遥院実隆(さねたか)という公家が宗鑑に、 古歌の上の句につけて、どんな歌でもたちどころに 感慨深くしてしまう便利な下の句があると言いました。

それは「といひし昔のしのばるゝかな」というもの。

たとえば

田子の浦にうちいでゝみれば白妙のと いひし昔のしのばるゝかな
世の中は常にもがもな渚こぐと いひし昔のしのばるゝかな

というわけです。
これには宗鑑、カチンときたらしい。
ちょっと考えてから、こう応えました。

衣食住の事足りているあなた方はともかく、
我々卑賤の身分にふさわしいのは
「それにつけても金の欲しさよ」という下の句です。

つまり

田子の浦にうちいでゝみれば白妙の それにつけても金の欲しさよ

富士の高嶺に雪が降ろうと降るまいと一向かまわず、 ただ金が欲しいというのが庶民の真情だと、 宗鑑は気取った公家に諧謔で返したのです。

この話は宗鑑の武勇伝として長く語り伝えられました。

いくつか宗鑑の発句を見てみましょう。

○花よりも団子と 誰かいはつゝじ

○手をついて 歌まうし上ぐる蛙かな

○寒くとも 火になあたりそ雪仏

連歌師らしく掛詞(かけことば)を活かした「花よりも」、 蛙の姿を礼儀正しいと見た「手をついて」、 溶けてしまわぬようにという「寒くとも」、 どれも微笑ましい作品です。

実はこれらはまともな作品の部類で、 ここに載せるのがはばかられるような お下品なものが多いのが宗鑑の特徴です。

伝統の破壊と新ジャンル確立への意気込みと考えれば、 それもかっこいいのかも知れません。 興味がおありの方はぜひ、自力で…。

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