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  【蕪村菴俳諧帖9】 句を詠む少女
 

 

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◆蕪村が選んだ乙女たち
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蕪村は還暦も近い安永3年(1774年)、
女性の句ばかりを集めたアンソロジー『俳諧玉藻集』を刊行しました。
この句集には加賀千代女(ちよじょ)や
捨女(すてじょ)ほど有名でない俳人の句が多く集められています。

俳諧は江戸時代の民衆の文芸でした。
老若男女こぞって誹諧に親しんでおり、
女性でもプロとして門弟をもつほどの人もいたのです。

しかし今回は素人の句、それも少女の作品を
『玉藻集』から見ていきましょう。

まず三河国(愛知県)牛久保の少女から。

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○美しい処がほしい 梅の花 (きち)
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梅の花がもっと美しければというのではなくて、
梅の花の美しいところが自分にも欲しいというのです。
「ほしい」で一旦切れています。

幼い感じがかわいらしいので、蕪村の目にとまったのでしょう。
きちはそろそろ恋を知るお年頃なのでしょうか。

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○友憎くや 翌というたが花の雨 (みね)
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友だちを花見に誘ったら、翌(あす)にしようと言われた。
そしたら雨が降ってしまったじゃないのよ、というわけです。
ちょっとした恨みの心を「花の雨」という美しい季語で締めていて、
おとなの句としても通用しますね。

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○今朝見れば 猫の踏折る菖蒲哉 (花鈴)
○一羽飛ぶ 雁に哀の寝覚かな  (花鈴)
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花鈴というのは「かれい」と読むのか、
それとも「かりん」というのか、いずれにしても俳号でしょう。

猫の句は、昨日までは美しく咲いていた菖蒲の
翌朝のみじめな姿を詠ったもの。
ドキリとする光景が目に浮かびます。

雁の句は、群れて飛ぶはずの雁が一羽で飛んでいる
その姿を哀れと見た一句。

孤雁(こがん)という言葉があって、
群れからはぐれた雁は昔から詩歌の題材でした。
寝覚めに夜空を見上げた少女花鈴、
ただ者ではなかったかも。

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○わが年に今宵十五夜の月見哉 (池浦知仲妹)
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池浦知仲が誰なのかわからないので
その妹といわれても…ですが、15歳のときの名月の一句だとか。

娘十五というと当時はお年ごろ。
自分もそういう年齢になったんだなぁという、
感慨のようなものが感じられます。
一緒に月を見ていたのは誰だったのでしょうね。

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○雪見には 殿達恥る心かな (さよ)
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殿達は男たち。雪景色を楽しんでいるはずが、
男たちの視線が気になって恥ずかしいのです。
積もった雪の照り返しで美人に見えていたかも知れないのに、
むしろその明るさが恥ずかしかったのでしょう。
初々しい、少女らしい一句です。

次回は同じ『玉藻集』から
おとなの女性の句を紹介します。




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