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  【蕪村菴俳諧帖7】 甘酒は夏の季語
 

 

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◆夏のサプリメント
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タイトルを見て不思議に思った人があるかも知れませんが、
甘酒は意外なことに夏の季語なのです。

甘酒はもともと祭のときなどに作られ、
神前に供えたのち参拝者にふるまわれるものでした。
江戸時代になって甘酒を通年販売する店が現われ、
「あまーい、あまーい」と呼び売りする商売も誕生。
京都や大阪では夏の夜だけ売り歩いたそうです。

おそらくそのあたりに、夏の季語になった理由があるのでしょう。
安価で手軽な甘酒は庶民の飲み物として親しまれるようになり、
冬は身体を温めるために、
夏は暑気払いに飲む習慣も根付いていきました。

蕪村にこんな句があります。

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○あま酒の地獄も近し 箱根山
○愚痴無智のあまざけ造る 松が岡
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箱根の名所である地獄(現在の大涌谷・小涌谷)と
箱根名物の甘酒を並べてみせ、
旅の楽しみを詠ったのが「箱根山」の句。
ぐつぐつ煮立つ甘酒は地獄の釜を思わせます。

松が岡は駆け込み寺として有名な東慶寺(とうけいじ)のあるところ。
東慶寺は尼寺なので、甘酒の「あま」と掛けています。
「ぐちむち」も甘酒を作るときの音なのでしょう、
仏教用語の「愚痴」と「無智」に掛けています。

尼僧が酒を飲んでいいのかと思われますが、
米と米麹(こうじ)で作る甘酒にアルコール分は含まれません。
甘味は米のデンプンがブドウ糖になったもの。
それを「酒」と呼ぶのは、日本酒と原料が同じだからとも
造り酒屋が副業で作っていたからともいわれます。

幕府が甘酒の価格制限をしていたという話もあり、
売値が高騰して貧しい人々が買えなくなることがないよう
配慮していたのだと思われます。

甘酒は天然ビタミンとアミノ酸を豊富に含み、
総合栄養ドリンクと呼びたいほどのすぐれもの。
暑い夏の間は熱中症対策にうってつけだったわけで、
幕府も粋な計らいをしてくれたものです。

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◆子どもも飲める一夜酒
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甘酒は一晩でできるので、
別名を「一夜酒(ひとよざけ)」といいます。
ふたたび蕪村の句を。

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○御仏に昼供へけり ひと夜酒
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供え物はふつう朝のうちにするものです。
暑い昼に甘酒を飲もうとして、仏さまにもおすそ分け。
ほほえましい夏のひとときが目に浮かびます。

ほほえましいといえば、
小林一茶にこういう句がありました。

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○一夜酒 隣の子迄来たりけり (一茶)
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甘酒を飲ませようと
外で遊んでいる子どもを呼んだのです。
子どもたちは甘酒を飲み干して、
また元気よく飛び出していったことでしょう。



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