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  【蕪村菴俳諧帖2】 猫の恋
 

 

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◆俳人は猫が好き?
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「猫の恋」は春の季語。
だからということもないでしょうが、
犬を詠んだ句は少ないのに、猫の句はたくさんあります。
たとえば蕪村ではこういう句が。

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○巡礼の宿とる軒や 猫の恋
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巡礼の宿ならばひっそりしているかと思いきや、
軒端では猫たちがみゃあみゃあと声を張りあげて恋を語る、
そのギャップにおかしみを感じる一句です。
春の宵の悩ましさを思い起こす人もいるでしょう。

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○猫の恋 へついの崩より通ひけり (芭蕉)
○猫の恋 屋根にあまりて縁の下 (也有)
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「へつい」は「へっつい」ともいい、竈(かまど)のこと。
  かつては火を消した後の竈の灰にうずくまる猫がよく見られました。
「へっつい猫」「竈猫」という季語があったほどです。

也有(やゆう)の句では、猫のカップルで屋根の上が満員なのか、
縁の下からも切ない猫の声が聞えてくるというもの。
上からも下からもでは、さぞかし賑やかなことだったでしょう。

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◆江戸時代はペットブーム
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江戸時代の代表的なペットは犬、猫、金魚。
犬は特に狆(ちん)がもてはやされたそうです。

蕉門の俳人嵐雪(らんせつ)に面白いエピソードが伝わっています。
嵐雪の妻は烈(れつ)といい、たいへんな猫好きでした。

敷物や食器類に人間以上の贅沢をさせ、
生臭(なまぐさ)を忌む日にも生魚を与えるほどの溺愛ぶり。

それを苦々しく思っていた嵐雪は妻の留守を見はからい、
猫を遠方に預けてしまいます。
戻ってきた妻は猫の姿がないのに気づいて半狂乱。
具合が悪くなって、こんな句を詠んだといいます。

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○猫の妻 いかなる君の奪ひ行く (烈)
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やがて嵐雪が猫を隠したことがばれ、夫婦喧嘩に。
門人たちが嵐雪を説得して謝らせ、ようやく仲直りしたとか。

ここで女性俳人の猫の句を見てみましょう。

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○恋せずは 猫のこゝろのおそろしや (秋色)
○猫の足 洗うてやらん春の雨 (翠羽)
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秋色(しゅうしき)の句、
恋したことのない身には、鳴き騒ぐ恋猫は恐ろしいだろうと。
しかし恋を知った今では、猫の心もわかるというのですね。

翠羽(すいう)はその心を汲んで、
春泥に汚れて帰ってきた猫の足を洗ってやろうといいます。
恋は成就したのか、それとも破れたのか、
作者は猫の姿から読み取っていたのかも知れません。


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