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  【蕪村菴俳諧帖1】 月と美女
 

 

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◆おぼろ月幻想
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2009年にその使命を終えましたが、
日本初の月周回衛星の愛称は「かぐや」といいました。
ハイビジョンカメラによる鮮明な月の映像は記憶に新しいところです。

もちろん「かぐや」は『竹取物語』から採られたもの。
もともとギリシア神話の月の女神にちなんだ
「セレーネ(Selene)」という名前があったのですが、
日本らしい名前をということで、愛称が募集されたのです。

同じころ、中国の月探査衛星も打ち上げられました。
その名は「嫦娥(じょうが)」。こちらも伝説の女性の名前です。

蕪村はこの嫦娥を句に詠んでいます。

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○薬盗む女やはあるおぼろ月
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嫦娥は弓の名手?(げい)の妻でしたが、
夫が西王母(せいおうぼ=中国神話の女神)からもらってきた
不老不死の薬を盗み、月に逃げたと伝えられています。

春のおぼろ月はかすんでいるので、逃げていくには好都合。
蕪村はそう思ったのでしょう。

ところで、『竹取物語』でも
かぐや姫が不死の薬を置き土産にしたとあり、
月と女と不死が結びつきます。

嫦娥が持ち去った薬をかぐや姫が再び地球にもたらした。
ところが、帝はそんなものは要らないといって、
ふじ(不死)山の頂上で燃やさせてしまった…。
二つの物語をくっつけると、そんな推理も成り立ちそうです。

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◆太陽を射た男
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中国の伝説によれば、
かつて太陽は10個あって、交代で大地を照らしていました。
しかし堯(ぎょう)の時代になるとその順番が乱れ、
10個の太陽がいっぺんに現われるという事態に。

これでは暑くてたまりません。そんな時、
人々を炎熱の苦しみから救ったのが?でした。
?は得意の弓を用いて九つの太陽を射落としたのです。

これはもう、英雄と呼ぶしかない偉業です。

ここで松永貞徳の句を。

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○三日月は嫦娥や盗む?が弓
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おやおや、?は不死の薬だけでなく
弓まで盗まれてしまったのでしょうか。

いいえ、これは貞徳が三日月を見て想像しただけで
そんな言い伝えはありません。

こういう機知、ユーモアも俳諧の伝統。
俳人たちはいかに気の利いた句を吐くかを競い、
人々はそれを楽しんでいたのです。

※文中の「?(げい)」は一部OSでは表示されないことがあります。
羽の下に弁の下の部分「廾(にじゅうあし)」を書きます。


 


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